• 当選テーマ

2023年度 当選テーマ

第1回となる今回は、51件の応募がありました。応募いただいた皆さまに感謝申し上げます。3名の審査員による審査から6件のテーマを決定いたしました。

当選テーマ名(応募順の記載)・応募者氏名(敬称略)、所属

光ピンセット法によって捕捉した微粒子を用いたプラズマ電界の高精度測定と電界揺らぎの評価
佐藤 斗真
(九州大学大学院システム情報科学府 白谷研究室)

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国土保全のためのCyber-Physical インフラメンテナンス
片山 広樹、小林 健
(東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 地域/情報研究室)

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大気圧下で成膜可能なミストCVD装置を使用したスマートウインドウ等への応用に向けた窒素ドープVO2薄膜の形成
加納 大成
(京都工芸繊維大学大学院電子システム工学専攻 半導体工学研究室)

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痛みのない経皮薬物投与のための小形超音波トランスデューサの開発
山本 真也
(東京工業大学工学院機械系機械コース 進士研究室)

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生体外での腎オルガノイドへの血管新生
塩田 拓輝
(東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻 酒井西川研究室)

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透明ガラス形状を維持する潜熱蓄熱材料の創製
菊地 真魚
(山形大学大学院理工学研究科 松井淳研究室)

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審査員より 第1回TRENG Supportを終えて(敬称略)

神永 晉 様

神永 晉

東レ株式会社 社外取締役

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 応募された51件の論文はいずれも甲乙つけがたい立派なもので深く感銘を受けました。どの論文も研究のポイントを的確に理解してほしいという熱意が伝わって来るハイレベルなものと言えます。中でも、工学の範囲にとどまらず、異なる分野へのアプローチとその融合を研究目的としたものが少なからず見られたことは注目に値します。
 研究は自分の専門を究極まで深めることが重要であることはもちろんですが、それを基盤として他の分野への広がりを模索し、人々の幸せのためのより良い社会の構築に寄与することが、工学の研究にとって重要です。何事も単に受け身で自己完結するのでなく、他者へ働きかけるものでなくてはなりません。その観点から将来への繋がりを予見させる論文が多く見られたことは大きな楽しみです。今回の選考結果にかかわらず、皆さんの研究が将来に向けて更に深化することを期待します。


竹内 佐和子 様

竹内 佐和子

東京音楽大学 特任教授、東レエンジニアリング株式会社 技術顧問

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 今回の評価ポイントは、身近な生活環境から思いついた開発テーマを先端技術に結びつけ、将来の市場化まで見通すプロセスです。全国から届いた応募は、宇宙工学、通信、医療、情報技術にわたり、研究姿勢は甲乙つけがたく、意気込みに拍手喝采です。次の課題は新技術を産業界にどう移転するかになるでしょう。それにはターゲットとなる産業や地域に接点を作り、早い段階で社会に投げかけ、反応を取り込み、開発プロセスを加速する必要があります。独自のコンセプト作りも必要です。
「社会的インパクト」は急速な高齢化、構造物の老朽化、投資意欲の減退という「ねじれた」現実にテクノロジーでどう立ち向かうか、を問うています。多くの人々は技術の新旧に関係なく豊かで人間的な生活を願います。そういう世界にアピールする技術やルートを開拓するため、今後は国際的に、かつ点から面に広げて取り組んでほしいと思います。


黒田 秀樹 様

黒田 秀樹

CMディレクター、信州大学 特任教授

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 手塚治虫氏の描く未来図を読み解くようでした。工学的見地による問題意識を基に、プラズマ電界、血管新生などミクロなテーマから、空間経済モデル、宇宙への探究などマクロなテーマまで多岐にわたることに驚きました。自分にはおのおのの研究を正確に理解する知見はありませんので、表現力や社会的インパクトをポイントに審査させていただきました。結果、普段使わない脳の回路がチクチク刺激を受け、圧倒された次第です。
 一方、独自の研究のプレゼンには分かりやすさこそ必要です。図解を含む表記が自己完結しているものも多くありました。伝達力を磨いてさらなる対外的飛躍を期待します。現状の環境や事業に対する疑問や怒りをモチベーションにした研究者には、青色LEDの中村修二氏を重ねました。山中伸弥氏、本庶佑氏、真鍋淑郎氏に続く研究者は確かに存在します。誇らしく頼もしい学生たちを応援します。


2023年12月12日付け日刊工業新聞4面「第1回 修士研究応援 TRENG Support」 ダウンロード

併せて2023年10月16日付[プレスリリース]工学系大学院での研究を応援する取り組み「TRENG Support」の当選者を決定もご覧ください。

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光ピンセット法によって捕捉した微粒子を用いたプラズマ電界の高精度測定と電界揺らぎの評価
佐藤 斗真
(九州大学大学院システム情報科学府 白谷研究室)
 3次元NANDメモリーの製造では積み重ねたゲート層を垂直に貫いて“ホール”を開けるプラズマエッチング工程がある。半導体プロセスノードが2nm(ナノは10億分の1)に達する中、この工程で従来許容されてきた穴径がわずかに粗くなる「形状揺らぎ」が問題になっている。
 形状揺らぎにはプラズマ中のイオンの運動エネルギーと方向を決める「シース電界」の揺らぎが大きく関わる。本研究ではプラズマ中に導入した微粒子を光ピンセット法で捕捉し、シース電界の高精度な計測と評価を目指す。
 この計測手法の確立によって電界揺らぎを原因とする形状揺らぎの制御が可能になり、次世代半導体製造の歩留まり向上と温室効果ガスの排出削減に大きく貢献できる。

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国土保全のためのCyber-Physical インフラメンテナンス
片山 広樹、小林 健
(東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 地域/情報研究室)
 橋梁などインフラ構造物の維持管理は目視での点検やデータの手入力など労働集約的な作業が少なくない。耐用年数を超えた構造物が増える中、行政機関の財源、土木関係職員の不足で継続的な維持管理が困難になってきている。
 本研究ではデジタル空間での3Dモデル自動構築と、3Dモデルに基づく自動メンテナンス技術の開発を進めている。劣化予測と最適な修繕計画策定を可能にし、実世界での自律型ロボットによる効率的なメンテナンスを目指している。
 これにより担い手不足の解消と維持管理費の削減、データに基づくメンテナンス品質の向上を実現する。

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大気圧下で成膜可能なミストCVD装置を使用したスマートウインドウ等への応用に向けた窒素ドープVO2薄膜の形成
加納 大成
(京都工芸繊維大学大学院電子システム工学専攻 半導体工学研究室)
「電力需給の逼迫」という言葉が一般化した今、各家庭における消費電力の削減がより大きな課題となっている。この解決策の一つとして期待されているのが、光の透過率を制御できる機能的な窓「スマートウインドウ」だ。
 本研究では大気中で成膜できるミストCVD(化学気相成長)装置を使い、二酸化バナジウム(VO2)を用いたスマートウインドウ作成の基礎技術を確立。VO2への窒素ドープ(添加)により電気で制御することなく、赤外領域の透過率を変えられる機能の付与を目指す。
 真空装置が不要になるため大量生産体制の構築が容易になるほか、電力供給が難しい場所の窓への利用も促進できる。高層ビルや自動車の窓などへの応用も視野に入れる。

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痛みのない経皮薬物投与のための小形超音波トランスデューサの開発
山本 真也
(東京工業大学工学院機械系機械コース 進士研究室)
 薬液の投与法として広く使われる"注射"は針の痛みや誤用による感染リスクなどの課題がある。そこで注目されているのが、超音波を利用して皮膚から薬物を吸収させる「超音波導入法」。高強度、低周波の超音波でキャビテーションを起こし、薬に皮膚のバリアーを突破させる。
 ただ高強度の超音波は健康な組織を損傷するリスクがある。また低周波用のトランスデューサーは振動子が大きく装着に向かない。本研究は効率的、低侵襲に皮膚や粘膜に対してキャビテーションを発生させるトランスデューサーの開発を目指す。
 この成果で注射を嫌う患者に選択肢を示せるようになる。またウエアラブル化により、さまざまな治療に貢献する。

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生体外での腎オルガノイドへの血管新生
塩田 拓輝
(東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻 酒井西川研究室)
 臓器の機能や構造を模した細胞塊「オルガノイド」は移植臓器や診断・薬効評価の臓器モデルとして応用が期待される。ただ細胞塊を大きく成熟させるには組織内に酸素を供給する血管網が必要。人体で使うには異種細胞の混入を避けるため、これを生体外で配備しなければならない。
 すでに人工の"血管様組織"からの血管新生を用いた手法などもあるが、オルガノイドでは、ほとんど利用されていない。本研究ではマウス胎仔(たいじ)腎臓を使い、体系的にオルガノイドへの血管新生を達成する。
 この成果から大規模で成熟したオルガノイドが構築可能になる。再生医療や個別医療に貢献するほか、他の臓器にも同手法の応用が見込める。

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透明ガラス形状を維持する潜熱蓄熱材料の創製
菊地 真魚
(山形大学大学院理工学研究科 松井淳研究室)
 世界の全エネルギー消費の20%をビルや建物内の温度調節が占める。一方で窓などの透明部材が熱の60%以上を放出、流入させている。このため中空層を挟んだペアガラスや低反射ガラスが用いられるが、単純なペアガラスは放射熱を防げない。低反射ガラスも太陽光に含まれる赤外線を反射するため、冬場の暖房は欠かせない。
 本研究ではアルキルアクリルアミド系高分子のガラス転移温度以下での凝集・溶融に伴う吸放熱を利用して蓄熱時に白濁しない、軽くて柔軟な潜熱蓄熱高分子フィルムの創製を目指す。窓を熱の有効利用部材に変え、温度調節に消費するエネルギーの削減を実現するほか、ビニールハウスなどへの応用を視野に入れる。