• 当選テーマ

2024年度 当選テーマ

第2回となる今回は、23校から37件の応募がありました。応募いただいた皆さまに感謝申し上げます。3名の審査員による審査から6件のテーマを決定いたしました。

当選テーマ名(応募順の記載)・応募者氏名(敬称略)、所属

グリーンイノベーション

先進的原子間力顕微鏡を駆使した水電解ナノバブルの形成メカニズムの解明
大橋 龍人
(北海道大学大学院 工学院 材料科学専攻 環境材料学研究室)

テーマ概要(クリック)

空孔の作用に着目したBCC鉄の水素脆化抑制元素の探索
加藤 真也
(京都先端科学大学大学院 工学研究科機械電気システム工学専攻 M6 Lab.)

テーマ概要(クリック)

ライフイノベーション

Car-T細胞療法の安全性向上を目指した細胞死誘導DNAナノポアスイッチの開発
井澤 幸広
(⻑岡技術科学大学大学院 工学研究科工学専攻 ナノ・バイオインテグレーテッドシステム研究室)

テーマ概要(クリック)

心疾患タンパク質バイオマーカー検出のためのバイオセンサー実現
能木 暢
(早稲田大学大学院情報生産システム研究科 バイオ情報センシング研究室)

テーマ概要(クリック)

デジタルイノベーション

次世代放熱基板材料を目指したヘテロ構造材料の開発
宮内 健太郎
(立命館大学大学院 理工学研究科機械システム専攻 材料科学研究室)

テーマ概要(クリック)

多層グラフェンを用いた赤外分析による高空間分解能異物検査技術の開発
上村 祥大
(慶應義塾大学大学院 理工学研究科基礎理工学専攻 牧研究室)

テーマ概要(クリック)



審査員より 第2回TRENG Supportを終えて(敬称略)

神永 晉 様

神永 晉

東レ株式会社 社外取締役

コメントを開く(クリック)

 今回の37件の論文は、研究の目的が明確に示され、そこに至る課題を設定する上で意欲的なものばかりでした。研究の視点の斬新さや、目指す成果の具体性などの点でレベルの高い論文が多く見られ、将来が楽しみです。
 工学分野の研究では、自分の研究基盤を究極的に深める一方で、物事を俯瞰(ふかん)的に見て他者を巻き込み、主体性を持って目的の実現にまい進することが重要です。そのため、自分の拠って立つ基盤は、他者を十分に惹きつける魅力を持ったものに研ぎ澄まされていなければなりません。自分の研究が、国内に留まらず、世界各地域の人たちとの協業につながることを目指してほしいと思います。
 すべては好奇心から始まり、それを熱意で膨らませ、想像力をもって他者からどう見えるか考えた上で、創造力をもって新しいものを作り上げる、これがイノベーションであり、研究はそのためにあることを常に念頭においてほしいと思います。


竹内 佐和子 様

竹内 佐和子

東京音楽大学 特任教授、東レエンジニアリング株式会社 技術顧問

コメントを開く(クリック)

 今年のテーマ選定から、ライフサイエンス、環境、デジタル分野の研究現場の課題が見えます。医学関連では、生体情報センサー、細胞レベルの非侵襲性の治療法、次世代型の医療デバイス開発、うつ病対策など医工連携型研究が増加、デジタルでは、スマホやAIを多用する社会での環境低負荷材料の開発、環境では、EVや水素普及を見越した、環境適合性の高い材料開発などが浮上しています。
 方法論として、AI利用のデータ探索型、機械学習などの方法が目立ちますが、サイバー空間と、生命現象など現実空間のギャップをどう埋めるか、工学的成果を医療にどう結び付けるかという課題が浮き彫りになっています。
 他方、萌芽(ほうが)的研究はとても発想豊かで、活動も活発です。こういった現状をお互いにシェアできるよう、本事業では、研究室の垣根を越えたネットワークづくりをもっと後押ししたいと考えています。


黒田 秀樹 様

黒田 秀樹

CMディレクター、信州大学 特任教授

コメントを開く(クリック)

 少子高齢化と向き合う先端医療技術、地球温暖化と水素エネルギー社会への展望、半導体高性能化による発熱量増加と新素材開発、精密機器異物検査の効率化、など。問題意識と「その先の解決法」を熱意ある文章と図解で提示してくれました。
 伝えたい! という熱量あふれるものばかりです。圧倒され、興奮しました。工学系研究者が、この国の脊髄や骨格を作り、そこに文系脳が血液や肉体を表現する。次世代のビジョンを垣間見た、と同時に、これらの真摯(しんし)な研究を産業につなぐ「仕組み」の必要性を強く感じた次第です。
 研究手法や社会的インパクトに多く記された「コストダウン」という言葉。コスト削減はやはり大きな命題として存在するのですね。失われた30年、経済の低迷は日本人の心底に根付いているのでしょう。そんな時代だからこそ、皆さんが全く新しい未来図を描いてくれるという期待感があります。今後とも、心から応援させていただきます。


2024年12月12日付け日刊工業新聞10面「第2回 修士研究応援 TRENG Support」 ダウンロード

併せて2024年10月15日付け[プレスリリース]工学系大学院での研究を応援する取り組み「TRENG Support」の当選者を決定もご覧ください。

閉じる

先進的原子間力顕微鏡を駆使した水電解ナノバブルの形成メカニズムの解明
大橋 龍人
(北海道大学大学院 工学院 材料科学専攻 環境材料学研究室)
 水素エネルギー社会の実現には、水の電気分解の高効率化が急務。一方で、電解中に発生するナノサイズの気泡「ナノバブル」が大きな抵抗を招くことが分かってきた。次世代型水素製造にはナノバブル制御が不可欠だが、この形成メカニズムはまだ明かされていない。
 本研究では、液中のガス分子を認識できる周波数変調型原子間力顕微鏡と、ナノ現象をリアルタイムに観察できる高速原子間力顕微鏡に着目した。これらを組み合わせ、ナノバブルの発生初期の過程を直接撮影し、メカニズムを解明する。
 成果はナノバブルフリーな水素生産に大きく貢献する。装置の小型化も進められ、「一家に1台、水電解」のという未来が実現できる可能性がある。

閉じる

空孔の作用に着目したBCC鉄の水素脆化抑制元素の探索
加藤 真也
(京都先端科学大学大学院 工学研究科機械電気システム工学専攻 M6 Lab.)
 鋼に侵入した水素原子は力学特性を劣化させる「水素脆化」を引き起こす。水素によって生成が促進された空孔が結晶粒界(結晶粒の境界面)に拡散し、水素との重畳作用で結合エネルギーを低下させることが先行研究で分かっており、その変形や破壊に影響していると考えられる。
 このため本研究では物質の電子状態を計算する第一原理計算を用いて水素による空孔の生成や拡散を抑制し、結晶粒界での作用を抑制する添加元素を探索する。
 これにより水素脆化に対して高い耐久性を持つ鋼(耐水素鋼)の開発が可能になる。水素関連製品の耐久性向上、長寿命化につながり、水素社会の実現に貢献する。

閉じる

Car-T細胞療法の安全性向上を目指した細胞死誘導DNAナノポアスイッチの開発
井澤 幸広
(⻑岡技術科学大学大学院 工学研究科工学専攻 ナノ・バイオインテグレーテッドシステム研究室)
 遺伝子操作により患者由来の細胞にがん細胞の抗体を発現させて用いるCar-T細胞療法が社会実装されている。強力ながんの治療法とされる一方、Car-T細胞の過活性が指摘されており、対策が求められている。
 遺伝的な細胞死(アポトーシス)を誘導する既存手法はこれに高耐性を持つ細胞には適用できない。このため自然界にある細胞死誘導たんぱく質「ナノポア」を模し、細胞膜を壊して細胞死を誘導する「DNAナノポアスイッチ」を開発する。
 異なる原理のスイッチの実現により、この分野の研究促進が期待できる。また人工的に改変した細胞による治療の質と安全の向上に寄与する。

閉じる

心疾患タンパク質バイオマーカー検出のためのバイオセンサー実現
能木 暢
(早稲田大学大学院情報生産システム研究科 バイオ情報センシング研究室)
 日本国内の心疾患の罹患(りかん)者数は20年で1.6倍に増えている。抑制には家庭などでの心疾患リスクの連続的な監視が重要だが、疾患につながるたんぱく質を容易に検知できるウエアラブルセンサーは実在していない。
 本研究は皮膚間質液から得るたんぱく質バイオマーカーのデータを用い、長期間の装着と高精度に連続検知が可能なウエアラブル心疾患たんぱく質センサーを完成させる。
 このセンサーはバイオマーカーと結合する抗体や、特定のたんぱく質と特異的に結合するアプタマー部分を取り換えて、がんマーカーの検知・経過観察など心疾患以外にも応用可能。よりよい社会の実現と市場の創出に貢献する。

閉じる

次世代放熱基板材料を目指したヘテロ構造材料の開発
宮内 健太郎
(立命館大学大学院 理工学研究科機械システム専攻 材料科学研究室)
 集積回路(IC)の発熱対策に高い熱伝導性を持つ放熱基板(ヒートシンク)が使われている。放熱基板材料は高熱伝導率とともに低熱膨張率が好まれる。ICを構成するシリコン半導体は低熱伝導・低熱膨張で、両者の熱膨張率に差があると発熱時に材料の剝離を招き、暴走する危険があるためだ。
 本研究では異なる材料を不均一に複合して新材料を生み出す「ヘテロ構造制御」を用い、高熱伝導材料と低熱膨張材料の組織を持つ新たな放熱基板材料を創成。新材料の微細組織を観察、分析し、熱特性と力学特性を評価する。
 新材料によって高度計算中でも半導体の安定した冷却を可能にし、Society5.0社会の実現に貢献する。

閉じる

多層グラフェンを用いた赤外分析による高空間分解能異物検査技術の開発
上村 祥大
(慶應義塾大学大学院 理工学研究科基礎理工学専攻 牧研究室)
 長波長の赤外線を用いる一般的な赤外分析は、回折限界によって空間分解能が10μm(μ=マイクロは100万分の1)程度に制限される。このため需要が高まる高精度な異物検査においては物理的な限界を迎えていると言える。
 そこで本研究は光源そのものを波長以下の大きさに微細化。試料を光源に近づける手法により、近接場光を利用する簡便で安価な光学系を実現し、回折限界を超えた赤外イメージングを達成する。光源には高輝度で微細加工が容易な多層グラフェンを用いる。
 この技術により、コスト面で中小企業などにも導入しやすい高分解能の異物検査装置が提供可能。より安心安全な社会の実現に寄与する。